好酸球性食道炎とは?
好酸球性食道炎は、食道壁に免疫細胞の一種である好酸球が異常に集積し、慢性的な炎症や組織変化を引き起こすアレルギー性疾患です。食道は通常、食物や飲料を胃に運ぶ管ですが、そこに好酸球が過剰に集まると、内膜が厚く硬くなり、狭窄(きょうさく)や線維化を生じやすくなります。発症は小児から成人まで幅広く、症状は年齢によって異なるものの、嚥下(えんげ)障害や胸焼け、食事拒否など、日常生活に大きな支障を来します。近年ではアトピー性疾患の増加とともに患者数が急増しており、専門的な診断と包括的な治療アプローチが求められています。
好酸球性食道炎の
発症メカニズム
好酸球性食道炎の中心的なメカニズムは、食物抗原や環境抗原に対する過敏な免疫応答です。食道粘膜に侵入したアレルゲンが、粘膜上皮細胞や抗原提示細胞を介してIL-5やIL-13といった好酸球を誘引・活性化するサイトカインを放出します。これにより血中の好酸球が食道組織へ集まり、炎症を引き起こします。さらに、好酸球が放出するエオタキシンやMBP(主要塩基性たんぱく質)が組織損傷や線維化を促進し、慢性的な炎症サイクルが続くことで食道壁が硬くなるのです。マウスモデルでは、食道の好酸球浸潤と線維化が、サイトカイン阻害により大幅に改善された報告もあり、病態解明と新規治療開発の両面で注目されています。
好酸球性食道炎の現状
好酸球性食道炎の有病率は、地域差や診断基準の違いにより一概には言えませんが、欧米では人口10万人あたり約50~90人、日本でも増加傾向にあります。男性にやや多く、小児期に発症するケースは学童期の嚥下困難や食物拒否が最初のサインとなることが多い一方、成人では30~50代で胸焼けや食物嵌頓(かんとん)が契機になることが多いです。リスク因子としては、アトピー素因(喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎など)やIgE依存型アレルギー、家族歴が挙げられます。また、大気汚染や食生活の欧米化、腸内細菌叢の乱れも免疫調節に影響し、発症リスクを高める可能性が指摘されています。
(出典:日本における発症頻度と有病率https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38754794/
全世界・米国における有病率の目安https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37331411/)
好酸球性食道炎の主な症状
①嚥下困難・胸焼け・胸痛
最も頻度が高いのは嚥下困難で、特に固形物を飲み込みにくい症状が特徴的です。多くの患者が食事中に「つかえる」感覚を訴え、放置すると食物嵌頓(食べ物や異物が食道や消化管に詰まってしまい、スムーズに通過できなくなる状態)につながることもあります。また、胸焼けや胸痛を伴うことも多く、逆流性食道炎との鑑別が必要です。
②小児と成人の症状差
小児では嘔吐、食欲低下、体重減少や成長障害が目立ち、保護者が「好きだったものを食べなくなった」と気付くことが多いです。成人では、慢性的な胸焼けや食物嵌頓エピソード、食事への恐怖感(食べると痛い)から食事量が減少し、QOL(生活の質)の低下を招きます。
好酸球性食道炎の診断方法
確定診断には内視鏡検査と食道粘膜の組織生検が必須です。内視鏡では縦走ひだの消失、リング状狭窄、白斑(顆粒状隆起)など特徴的所見を観察し、組織生検で「1視野あたり15個以上の好酸球浸潤」が確認されれば、好酸球性食道炎と診断されます。血液検査では末梢血好酸球数や総IgE値、アレルギーパネル(特定抗原IgE)を測定し、鑑別診断として逆流性食道炎や食道運動障害(アカラシアなど)も併せて検討します。PPI(プロトンポンプ阻害薬)投与で改善が見られない場合は、より好酸球性疾患の可能性が高まります。
好酸球性食道炎の治療方法
①食事療法(除去食事法)
最も原則的なのは、トリガーとなる食物を除去する方法です。牛乳、卵、小麦、ナッツ、大豆、魚介類など6大アレルゲンを一斉除去し、症状や内視鏡所見の改善を確認した後、個別に再導入して原因食品を特定します。小児では成長を阻害しないよう栄養士のサポートが不可欠です。
②薬物療法
まずはPPI(プロトンポンプ阻害薬)での加療を行います。効果不十分な場合には局所ステロイドとしてフルチカゾン懸濁液やブデソニド懸濁液を食道に直接塗布する方法が主流で、粘膜好酸球数の減少と症状改善が得られます。併せてPPIを使用することで炎症を抑え、治療効果を高めます。ただし長期使用に伴う副作用(口腔カンジダ症、骨密度低下など)に注意が必要です。
③生物学的製剤
IL-5抗体(メポリズマブ)、IL-13抗体などを標的とした生物学的製剤の臨床試験が進行中で、重症例やステロイド抵抗例への新たな治療選択肢として期待されています。早期の適用基準や保険適用の動向にも注目が集まっています。
好酸球性食道炎を
日常生活で対策
①食品日誌の活用
摂取食品とその後の症状を詳細に記録する方法は、トリガーとなる食材を把握するのに有効です。少なくとも2週間、食品名・摂取量・症状の程度・発症時間を継続的に記録し、医師や栄養士と協力しながら原因食品を特定しましょう。
②ストレス管理と生活習慣
一般的にストレスは免疫機能に影響を及ぼすとされますが、好酸球性食道炎(EoE)特有の臨床データは限られています。十分な睡眠や呼吸法、簡単な瞑想など、心身の健康を支える習慣として取り入れることは推奨されますが、症状改善効果を断定するにはさらなる研究が必要です。
好酸球性食道炎の小児患者
①栄養管理と発育支援
除去食事による特定栄養素の不足を防ぐため、医師・栄養士と連携し、代替食品やサプリメントを活用します。成長曲線を定期的にチェックし、必要に応じて高カロリー・高タンパク質の飲料を導入することもあります。
②家族教育と学校対応
家庭内ではトリガー除去のルールを家族全員で共有し、子どもが学校給食や遠足で安全に過ごせるよう、事前に学校保健室や給食担当者と情報交換を行います。子ども自身にも病状や対処法を分かりやすく説明し、自立的なケアを促しましょう。
好酸球性食道炎の
成人患者のライフスタイル
①職場での食事管理
外食や出張先でもトリガー食材を避ける工夫が重要です。事前にメニューや食材について問い合わせるなど、セルフモニタリングの一環として行いましょう。
②運動と体重管理
適度な有酸素運動は一般的に免疫機能を整えるとされますが、好酸球性食道炎に特化した研究はまだ十分ではありません。過度なダイエットや激しい運動が炎症を悪化させる可能性については、免疫疾患全般の知見から「示唆される」段階にあり、個別の体調や医師の指導に基づいて無理のない範囲で行うことが大切です。
FAQ(よくある質問)
好酸球性食道炎は完治しますか?
完治は難しいものの、食事管理と適切な医療介入により長期的に症状をコントロールし、生活の質を維持できます。定期的な内視鏡検査で粘膜の状態を把握し、再発兆候を早期にとらえることが重要です。
どの食べ物が最もトリガーになりやすいですか?
牛乳、卵、小麦、大豆、ナッツ、魚介類の6大アレルゲンが典型的です。個人差が大きいため、除去試験と再導入で原因食品を特定します。
ステロイド治療の副作用は何ですか?
口腔カンジダ症や声のかすれ、骨密度低下のリスクがあります。使用期間や用量を最小限に抑え、定期的な口腔ケアや骨密度検査が推奨されます。
小児の診断基準は成人と同じですか?
基本的には同様ですが、成長や発達への影響を考慮し、粘膜病変の程度や症状強度に応じてより慎重に除去食事や薬剤選択を行います。
PPI(プロトンポンプ阻害薬)は全員に必要ですか?
効果が出る事が多いです。医師と相談の上、適切に使用します。
生物学的製剤はいつ利用できますか?
現在は臨床試験段階で、重症例や既存治療抵抗例への適用を目指しています。保険適用やガイドラインでの推奨が整備され次第、導入が進む見込みです。
ご予約はこちらから
当院では、好酸球性食道炎が不安な方にもしっかりと診察と検査を行います。場合によっては、内視鏡検査のご提案もいたします。まずは、外来へご予約のうえご来院ください。24時間web予約が可能です。