和光市駅前かわはら内視鏡・消化器内科クリニック

虚血性腸炎

虚血性腸炎とは何か

虚血性腸炎とは何か

虚血性腸炎(きょけつせいちょうえん)とは、大腸に流れる血液が一時的に不足することで腸の粘膜が傷つき、炎症や潰瘍、出血を引き起こす疾患です。医学的には「大腸の一過性虚血性障害」と定義され、消化器内科外来で非常に頻繁に遭遇します。特に50歳以上の中高年女性に多く、医療的には「突然の腹痛と血便を訴えて受診する疾患」として知られています。

腸は全身の中でも最も血流量が多い臓器のひとつで、食事の消化・吸収のために大量の酸素と栄養が必要です。しかし、大腸の血流は複雑に枝分かれしており、特に下行結腸やS状結腸の領域は血管の分岐が少ない“境界領域(ウォーターシェッドゾーン)”となっているため、わずかな血流低下でも虚血を起こしやすい構造的特徴を持ちます。

虚血性腸炎の発症メカニズムは、「動脈硬化による血管狭窄」と「腸内圧の上昇」という2つの要素が同時に関わることが多いです。動脈硬化や高血圧、糖尿病などによって腸への血流が慢性的に低下しているところへ、便秘や脱水などが重なると腸管内圧が上昇し、血流がさらに遮断されて炎症が生じます。そのため、便秘気味の中高年女性に好発する傾向があります。

虚血性腸炎の種類

大腸の血流は主に「上腸間膜動脈」と「下腸間膜動脈」によって供給されています。両者の血流が交差する左側大腸は、もともと血液の供給が限られています。そこに動脈硬化や便秘による腸内圧上昇が加わると、血流が一時的に停止し、腸の内側(粘膜層)から壊死や出血が起こります。

虚血性腸炎は、臨床的に「一過性型」「狭窄型」「壊死型」に分類されます。最も多いのは一過性型で、腸粘膜が一時的に虚血を起こしても自然に回復するものです。狭窄型では炎症後に線維化が残り、腸管が狭くなることで慢性的な便秘や通過障害を生じます。壊死型は稀ですが、腸壁全層が壊死して穿孔や腹膜炎を起こし、緊急手術を要します。
軽症例では数日で自然治癒しますが、重症例では敗血症やショックに至ることもあり、決して軽視できない疾患です。

さらに、心疾患や不整脈、心房細動を有する方では、腸の血管に血栓が飛んで閉塞を起こす「腸間膜動脈塞栓症」との鑑別も重要です。虚血性腸炎と腸間膜虚血は似たような症状を示すため、消化器内科医は常にその両者を区別して診断します。

虚血性腸炎を起こす主な原因

虚血性腸炎の発症には、単一の原因ではなく、複数の背景因子が絡み合っています。最も代表的なのは「加齢による血管の変性」と「便秘による腸内圧上昇」です。年齢とともに動脈は硬化し、血流が滞りやすくなります。そこに排便時の強い腹圧や硬便の通過が加わると、腸壁の血管が一時的に圧迫され、粘膜が虚血状態になります。

また、糖尿病や高血圧、高脂血症といった生活習慣病は血管内皮の機能を損ない、腸への血流を慢性的に低下させます。心疾患や腎不全、脱水もリスク因子となります。
薬剤も見逃せません。特に利尿薬や降圧薬、抗血小板薬、NSAIDs(解熱鎮痛薬)、便秘薬などが間接的に腸管虚血の引き金になることがあります。

虚血性腸炎の症状

虚血性腸炎の症状

虚血性腸炎の最も特徴的な症状は、突然発症する腹痛と、その直後にみられる鮮血便です。患者はしばしば「急にお腹が痛くなり、トイレに駆け込んだら血が混じっていた」と表現します。痛みは主に左下腹部に現れますが、病変の部位によって右側や中央に出ることもあります。
痛みは強いものの、しばらくすると軽減し、排便後に落ち着く傾向があります。血便は鮮やかな赤色で、粘液や便と混じって出ることが多く、量は中等量です。発熱は軽度、吐き気や倦怠感を伴う場合もありますが、全身状態は比較的保たれます。

ただし、壊死型や重症型では腹痛が持続的で強く、腹部が膨満し、発熱や嘔吐、ショックを呈することもあります。重症例では迅速な入院と全身管理が必要です。

虚血性腸炎の診断

診断は、臨床症状と検査所見を総合して行います。典型的な症例では、「中高年女性」「便秘傾向」「急な左下腹部痛」「鮮血便」の4点が診断の手がかりになります。
診断を確定するためには、CT検査と大腸内視鏡検査が不可欠です。

CTでは腸壁の浮腫や肥厚、周囲の脂肪織の炎症所見が見られ、穿孔や壊死を伴っていないかを確認します。内視鏡検査では、粘膜のびらん、潰瘍、縦走する赤い出血線(縦走潰瘍)、または境界明瞭な限局性病変が確認されます。炎症は連続せず、断続的であることが特徴的です。
病変部の粘膜は暗赤色や紫色に変化しており、組織を採取しても悪性所見は認めません。この点が大腸がんや潰瘍性大腸炎との鑑別点です。

血液検査では白血球増多やCRP上昇がみられることがありますが、軽症例ではほとんど正常範囲に留まります。重症例では乳酸値上昇が重要な指標となり、全身性虚血の早期発見に役立ちます。

虚血性腸炎の治療

軽症の虚血性腸炎は、絶食と輸液による保存的治療で自然に改善します。腸管を安静に保ち、脱水と電解質異常を補正することが基本です。点滴には電解質を含む輸液を用い、必要に応じて鎮痛薬を使用します。ただし、腸の蠕動を止めるような薬剤(鎮痙薬や止痢薬)は避けるべきです。腸の動きを抑えると、血流回復を妨げることがあるためです。

感染を疑う場合には抗菌薬を短期間併用します。症状が落ち着いたら、流動食から徐々に経口摂取を再開し、1週間程度で通常食に戻します。再発例では便秘の改善が治療の鍵であり、整腸剤や緩下剤を適切に調整します。

壊死型や穿孔型では外科的切除が必要です。手術が遅れると腹膜炎や敗血症に進展するため、強い腹痛や腹膜刺激症状が出た場合は即座に外科連携を行います。

虚血性腸炎の治療後

一過性型虚血性腸炎は、数日〜1週間で完全に回復することがほとんどです。しかし、再発を繰り返す症例も10〜20%程度あり、背景の便秘や血管障害が改善されないままだと再燃リスクが高まります。
慢性型や狭窄型では、腸の線維化が進み腸閉塞を起こすことがあるため、定期的な内視鏡フォローが必要です。再発を防ぐには、排便習慣の見直しと血管リスク因子の管理が最も重要です。

虚血性腸炎の再発予防

再発防止には、腸内環境を整えることと血流を保つことが欠かせません。日常的に食物繊維を意識して摂取し、水分を十分に取り、長時間の便秘を避けることが基本です。
高齢者では水分摂取量の低下が便秘を悪化させるため、1日1.5〜2リットルを目安に水分を摂るよう指導します。乳酸菌やオリゴ糖など腸内フローラを整える食品も有効です。
また、動脈硬化を予防するために、禁煙、適度な運動、脂質・糖質のコントロールを行いましょう。降圧薬や利尿薬を使用している方は、脱水に注意が必要です。

虚血性腸炎と他の疾患との区別

感染性腸炎では高熱と下痢が主体であり、便に粘液が混ざることが多いのに対し、虚血性腸炎では腹痛の後に鮮血便が出るのが典型です。潰瘍性大腸炎では炎症が直腸から連続的に広がるのに対し、虚血性腸炎では断続的・限局的病変が特徴的です。
大腸がんとの鑑別も重要で、腫瘍性病変は通常、経過が慢性で症状が持続し、CTや内視鏡で不整な隆起を示します。

虚血性腸炎は多くの場合、適切な支持療法で自然に治癒します。しかし、血流障害という本質的な問題を放置すれば再発を繰り返し、まれに壊死や穿孔に進展します。
「一度治ったから安心」と考えるのではなく、生活習慣や基礎疾患の管理を継続することが再発予防の鍵です。
もし血便や急な腹痛が出た場合は、我慢せず早めに消化器内科を受診してください。診断と治療の早さが、合併症を防ぐ最大の要素です。

よくある質問(FAQ)

虚血性腸炎はストレスが原因ですか?

ストレスそのものが直接の原因ではありませんが、自律神経の乱れや便秘を引き起こし、結果的に腸の血流を悪化させる要因となることがあります。

一度治れば再発しませんか?

多くの人は再発しませんが、便秘が続いたり動脈硬化が進行している場合には再発します。再発防止には便通と血管の健康管理が欠かせません。

食事制限は必要ですか?

急性期は腸を休ませるために一時的な絶食または流動食が必要ですが、回復後は制限の必要はなく、むしろバランスの取れた食事が腸の回復を助けます。

大腸がんとの違いは?

虚血性腸炎は急性発症で、数日で症状が改善します。大腸がんは慢性で、出血が断続的または持続的に起こる点が異なります。内視鏡で明確に区別可能です。

市販薬で治せますか?

整腸剤や下剤では一時的な症状緩和しか得られず、原因の特定と適切な管理には医師の診断が不可欠です。

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当院では、虚血性腸炎なのかもと不安な方にもしっかりと診察と検査を行います。場合によっては、内視鏡検査のご提案もいたします。まずは、外来へご予約のうえご来院ください。24時間web予約が可能です。

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