食道裂孔ヘルニアとは
食道裂孔ヘルニアとは、胃の一部が本来あるべきお腹の中(腹腔)から、横隔膜に存在する「食道裂孔」と呼ばれる穴を通って、胸の中(胸腔)へずれ上がってしまう状態を指します。横隔膜は、呼吸に深く関わる重要な筋肉であり、通常は胸と腹部をしっかりと分ける役割を担っています。その横隔膜を貫く形で食道が通っており、その通過口が食道裂孔です。
本来、この食道裂孔は食道の太さに合うように適度に引き締まっており、胃が上へ移動しないよう支える働きをしています。しかし、加齢や生活習慣の影響によってこの部分が緩むと、胃の一部が胸腔内へ入り込み、食道裂孔ヘルニアが生じます。特に日本では高齢化が進んでいることもあり、中高年層を中心にこの病気を指摘される人が年々増加しています。
食道裂孔ヘルニアは、健康診断や人間ドックで行われる内視鏡検査、あるいはバリウム検査などで偶然見つかることも多く、自覚症状がないまま経過するケースも少なくありません。その一方で、胸やけや酸っぱいものが込み上げる感覚、喉の違和感といった不快な症状に悩まされ、日常生活の質が大きく低下してしまう人もいます。
特に重要なのは、食道裂孔ヘルニアが逆流性食道炎と密接に関係しているという点です。胃酸の逆流を防ぐ構造が弱くなることで、食道に胃酸が逆流しやすくなり、慢性的な炎症を引き起こす原因となります。逆流性食道炎として治療を受けている人の多くに、背景疾患として食道裂孔ヘルニアが存在していることも珍しくありません。
また、この病気は「命に直結する重大な疾患ではない」と説明されることが多い一方で、「放置してもよい病気」というわけではありません。症状が軽い場合でも、生活習慣の乱れや体重増加などが引き金となり、徐々に悪化する可能性があります。そのため、正しい知識を持ち、自分の状態を理解したうえで適切に向き合うことが大切です。
食道裂孔ヘルニアの基礎知識
食道裂孔ヘルニアを理解するうえで欠かせないのが、「横隔膜」と「食道裂孔」の働きです。横隔膜は、胸腔と腹腔を隔てるドーム状の筋肉で、呼吸のたびに上下に動きながら肺の膨張と収縮を助けています。この横隔膜にはいくつかの孔があり、その一つが食道が通過するための食道裂孔です。
健康な状態では、この食道裂孔は食道の太さに合わせて適度に締まり、食道と胃のつなぎ目が正しい位置に保たれています。さらに、胃と食道の境界部には下部食道括約筋と呼ばれる筋肉があり、胃酸が逆流しないよう逆流防止弁の役割を果たしています。しかし、食道裂孔が緩んで広がると、この構造全体が不安定になり、胃の一部が胸腔側へずれ上がりやすくなります。
このようにして起こるのが食道裂孔ヘルニアであり、単に胃の位置が変わるだけでなく、胃酸逆流を防ぐ仕組みそのものが弱まる点が大きな問題となります。そのため、症状の有無にかかわらず、体の構造的な変化として理解しておくことが重要です。
食道裂孔ヘルニアの種類と特徴
食道裂孔ヘルニアはいくつかのタイプに分類されますが、日本人に最も多いのが「滑脱型」と呼ばれるタイプです。この滑脱型では、食道と胃のつなぎ目自体が上下に移動し、立っているときや腹圧がかかったときに胃が胸腔内へずれ込みやすくなります。このタイプは逆流性食道炎を合併しやすく、胸やけや呑酸といった症状の原因となることが多く見られます。
一方で、頻度は少ないものの注意が必要なのが「傍食道型」です。このタイプでは、食道と胃のつなぎ目は正常な位置にあるものの、胃の一部だけが食道の横から胸腔内へ入り込みます。初期には症状がほとんどないこともありますが、進行すると胃が締め付けられ、血流障害などの重い合併症を引き起こす可能性があります。
さらに、これらが混在した「混合型」も存在します。いずれのタイプであっても、医師による正確な診断と経過観察が欠かせません。
発症の原因とリスク要因
食道裂孔ヘルニアの発症には、複数の要因が関与しています。その中でも最も大きな要素とされているのが加齢です。年齢を重ねるにつれて横隔膜や周囲の筋肉、靭帯が徐々に弱くなり、食道裂孔を締める力が低下していきます。その結果、胃が上方へ移動しやすい状態が生まれます。
加えて、腹圧の慢性的な上昇も重要なリスク因子です。肥満によってお腹に常に圧力がかかっている状態や、妊娠による腹部の膨張、慢性的な便秘でいきむ習慣がある場合などは、腹腔内圧が繰り返し高まり、食道裂孔が広がりやすくなります。また、重い物を持つ仕事や、前かがみの姿勢が多い生活習慣も影響すると考えられています。
これらの要因が単独で作用する場合もあれば、複数が重なって発症することもあり、生活背景との関連性が非常に高い病気といえます。
現れやすい症状と経過
食道裂孔ヘルニアの症状は人によって大きく異なります。最も代表的なのは胸やけで、食後や横になったときに胸の中央が焼けるように感じることがあります。また、胃酸や苦味のある液体が喉まで上がってくる呑酸、胃もたれ、早期満腹感、喉の違和感などもよくみられます。
一方で、軽度の食道裂孔ヘルニアでは、こうした症状がほとんど現れない場合もあります。そのため、「異常があると言われたが特に困っていない」という状態で経過観察となるケースも少なくありません。ただし、症状がないからといって進行しないとは限らず、体重増加や生活習慣の変化によって症状が出現することもあります。
逆流性食道炎との深い関係
食道裂孔ヘルニアが注目される最大の理由の一つが、逆流性食道炎との強い関連性です。胃酸は本来、食道へ逆流しないよう複数の仕組みによって防がれていますが、食道裂孔ヘルニアがあると、その防御機構が弱まります。その結果、胃酸が食道へ逆流しやすくなり、粘膜に炎症が起こります。
逆流性食道炎が長期間続くと、慢性的な痛みや不快感だけでなく、食道粘膜の変化を引き起こすこともあります。そのため、胸やけが続く場合には、背景に食道裂孔ヘルニアがないかを調べることが重要です。
食道裂孔ヘルニアの診断の方法
診断には主に内視鏡検査が用いられます。内視鏡では、食道と胃の境界がどの位置にあるか、胃が胸腔側へ入り込んでいないかを直接確認することができます。また、逆流性食道炎の有無や重症度も同時に評価できます。
場合によっては、X線によるバリウム検査が行われることもあります。体位を変えながら撮影することで、胃の動きや位置異常を確認できる点が特徴です。
治療の考え方と選択肢
治療は、症状の程度や合併症の有無によって決まります。多くの場合、まずは生活習慣の改善と薬物療法による保存的治療が選択されます。食後すぐに横にならないことや、就寝時に上半身を少し高くする工夫は、胃酸逆流を減らすうえで非常に有効です。
薬物療法では、胃酸の分泌を抑える薬が用いられ、症状の軽減と粘膜の保護を目的とします。これらで十分な効果が得られない場合や、傍食道型で合併症のリスクが高い場合には、手術が検討されることもあります。
日常生活で気をつけたいポイント
食道裂孔ヘルニアと上手に付き合うためには、日常生活の中で腹圧を過度に高めない工夫が重要です。食事は一度にたくさん摂らず、ゆっくりよく噛んで食べることが推奨されます。また、脂肪分の多い食事やアルコールは胃酸分泌を促すため、摂り過ぎには注意が必要です。
適正体重を維持することも、症状の予防や悪化防止に大きく関わります。
食道裂孔ヘルニアについてのよくある質問
食道裂孔ヘルニアは自然に治りますか?
自然に完全に元へ戻ることは少なく、多くの場合は症状をコントロールしながら経過をみます。
命に関わる病気ですか?
ほとんどの場合は命に直結しませんが、傍食道型など一部では注意が必要です。
食事制限は必要ですか?
厳格な制限は不要ですが、胃酸逆流を起こしやすい食事は控えると症状が楽になります。
運動しても問題ありませんか?
軽い運動は問題ありませんが、強く腹圧がかかる運動は避けたほうがよいでしょう。
手術は必ず必要ですか?
多くの方は手術をせずに管理できます。
健康診断で指摘された場合は?
症状がなくても、一度は医師に相談し、定期的な確認を受けることが安心です。
ご予約はこちらから
当院では、食道裂孔ヘルニアなのかもと不安な方にもしっかりと診察と検査を行います。場合によっては、内視鏡検査のご提案もいたします。まずは、外来へご予約のうえご来院ください。24時間web予約が可能です。