【下血・血便の危険性とは?】
目次
■下血・血便の危険性とは?
■下血・血便の定義と種類
■下血・血便の原因と主要なリスク要因
■症状の見分け方と重症度の評価
■下血・血便の診断方法と検査内容
■下血・血便の治療法と対処法
■下血・血便の予防策と生活習慣の改善
■下血・血便の緊急時の対応と受診のタイミング
■よくある誤解
■下血・血便に関するよくある質問
■ご予約はこちらから
■下血・血便の危険性とは?
下血や血便は、消化管のどこかで出血が起きている明確なサインです。その背景には、単に痔核や切れ痔のような比較的軽度の疾患から、消化性潰瘍や大腸がん、炎症性腸疾患といった命に関わる重篤な病態まで、幅広い原因が潜んでいます。出血の部位や量、色調、そして伴う全身症状を正しく把握し、適切なタイミングで医療機関を受診することが、早期発見と予後改善の鍵となります。本記事では、下血・血便の定義と種類、主な原因とリスク要因、症状の見分け方、診断方法、治療法、日常生活での予防策、そして緊急時の対応といった重要ポイントを網羅的に解説します。
■下血・血便の定義と種類
下血(メレナ)は黒色〜黒褐色のタール便を指し、主に上部消化管(胃・十二指腸・食道)からの出血を示唆するものです。
一方、血便(ヘマトケジア)は鮮明な赤色〜暗赤色の便で、通常は下部消化管(大腸・直腸・肛門管)からの出血のことです。左側大腸出血(S状結腸・直腸)では鮮紅色便、右側大腸出血や小腸出血では暗赤色~マロン色便になることがあります。ただし、激しい上部消化管出血では血液が腸管を急速に通過して血便を呈することがあり、逆に右側結腸や小腸出血で便に黒色調を呈することもあります。
■下血・血便の原因と主要なリスク要因
血便や下血を引き起こす原因は多岐にわたりますが、特に頻度が高いものとして炎症性腸疾患、大腸ポリープや大腸がん、痔核や裂肛、消化性潰瘍などが挙げられます。炎症性腸疾患には潰瘍性大腸炎とクローン病が含まれ、いずれも慢性的に腸管粘膜の炎症やびらん、潰瘍を形成します。潰瘍性大腸炎は特に若年成人に多く見られ、下痢や血便を繰り返す経過をたどることが多いと言われています。クローン病は口腔から肛門まで消化管全体に炎症を引き起こしやすく、血便のみならず腹痛や体重減少も伴うことが少なくありません。これらの疾患の再燃・寛解を繰り返す性質のため、長期にわたる専門的な薬物療法と栄養管理が必要不可欠です。
大腸ポリープは一見良性の粘膜隆起であっても、放置するとがん化する可能性があります。特に腺腫性ポリープと呼ばれるタイプでは悪性化リスクが高く、直径が1センチメートルを超える場合や多発性である場合、また家族歴がある場合には定期的な切除・病理診断が推奨されます。大腸がんは初期に自覚症状が乏しく、進行すると持続的な血便や貧血症状が現れてから発見されることが多いため、50歳以上では定期的な大腸内視鏡検査を受けることが厚生労働省でも勧められています。食生活の欧米化や肥満、喫煙といった生活習慣も大腸がんのリスクを高める要因として知られています。
痔核や裂肛は比較的頻度が高い疾患ですが、軽度であれば薬物療法や生活指導で改善が期待できる一方、重度になると手術が必要となるケースもあります。痔核は肛門周辺の静脈叢が拡張して血液がうっ滞することで発症し、排便時に粘膜を刺激して出血しやすくなります。裂肛は硬い便や頻回の下痢により肛門粘膜が裂ける状態で、排便時の激痛を伴うことが多いため、痛みによって便意を我慢しがちになり、それがさらに便秘を悪化させる悪循環を生むことがあります。
消化性潰瘍は胃や十二指腸の粘膜が胃酸や消化酵素によって傷つき、びらんや潰瘍を形成する疾患です。胃潰瘍が出血を伴う場合には黒色便や嘔血となることがあり、特に大量出血の場合には緊急内視鏡的止血術や外科的処置を要することがあります。ヘリコバクター・ピロリ感染や非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)の長期服用、過度なストレスが発症の大きな誘因とされています。
■症状の見分け方と重症度の評価
下血・血便の緊急度を見極める際には、単に血の色や量を把握するだけでなく、全身症状や患者さんの背景も含めて総合的に評価することが重要です。まず、鮮紅色の血便は比較的直腸や肛門周辺からの出血を示唆し、暗赤色に近い血液は小腸末端や結腸深部からの出血を示す可能性があります。また、便全体が黒ずんだタール状になる場合には、上部消化管での出血であることが強く疑われ、速やかな対応が求められます。
併せて、めまいや動悸、息切れといった貧血症状が認められる場合には、慢性的な少量出血が進行しているか、大量出血によって急速に血液量が減少している恐れがあります。激しい腹痛を伴う場合には炎症性腸疾患の急性増悪や腸閉塞、穿孔など危険な合併症が考えられるため、一刻を争う判断が必要となります。発熱をともなう場合は感染性腸炎や炎症性腸疾患の活動性増悪が疑われ、炎症マーカーの上昇を示す血液検査の結果と合わせて治療方針を考慮します。さらに、冷汗や頻脈、血圧低下などショック兆候が見られるときは、大量出血の可能性が極めて高く、救急車要請や緊急輸液・輸血、止血処置が直ちに検討されます。
■下血・血便の診断方法と検査内容
下血・血便の原因を明らかにするためには、内視鏡検査を中心とした画像診断と血液検査を組み合わせた多角的な観察が不可欠です。大腸内視鏡検査では、直腸から盲腸までを直接観察し、生検やポリープ切除を同時に行うことができるため、最も確実な検査手段とされています。検査前には専用の下剤によって腸管内を徹底的に洗浄する必要があり、患者さんには一定の苦痛が伴いますが、病変の有無や範囲、性状を正確に評価できる点が大きな利点です。
上部消化管内視鏡検査、いわゆる胃カメラは、食道、胃、十二指腸の粘膜を観察しつつ出血点の確認や止血処置が可能です。経口または経鼻での挿入が選択でき、鎮静剤を用いて苦痛を軽減しながら実施されることが一般的です。大量出血が疑われる緊急時には、CT血管造影が用いられることもあり、これにより血管から直接出血部位を特定し、血管塞栓術などの治療計画を立てることができます。超音波検査は腹腔内の腹水貯留や腸管の肥厚を迅速に評価でき、出血の重篤度や炎症の拡大を推測する補助診断として有用です。
血液検査では、ヘモグロビンやヘマトクリットといった貧血指標のほか、白血球数やC反応性蛋白(CRP)などの炎症マーカー、血小板数を測定し、出血量や炎症の程度を把握します。これらの検査結果を総合的に判断することで、緊急度や適切な治療方針を迅速に決定することが可能となります。
■下血・血便の治療法と対処法
下血・血便の治療法は、出血の量や原因疾患の性質に応じて保存的治療から内視鏡的止血処置、外科手術まで多岐にわたります。保存的治療では、まず絶食と輸液による循環血液量の維持が行われ、病状安定化を図ります。その上で、消化性潰瘍による出血にはプロトンポンプ阻害薬(PPI)が投与され、腸管出血が伴う炎症性腸疾患には5-ASA製剤やステロイド、免疫抑制薬、生物学的製剤が段階的に導入されます。また、痔核に対しては市販の坐薬や軟膏による止血・消炎療法が行われ、症状の軽減が見られれば手術を回避できる場合もあります。
一方、大量出血や内視鏡的手技では止血が困難なケースでは、内視鏡的止血術としてクリップや電気凝固、注射療法が実施されます。さらにCT血管造影で出血動脈が特定できた場合には、血管塞栓術によって該当血管をコイルなどで塞栓する手法が有効です。それでも止血に至らない、あるいはショック兆候が顕著な場合には、緊急開腹下での外科的切除術や吻合術が検討されます。いずれの処置においても、専門医と多職種チームによる迅速な判断と治療実行が患者予後を左右します。
■下血・血便の予防策と生活習慣の改善
消化管出血を未然に防ぐためには、日々の食事や生活習慣の見直しが欠かせません。まず、食物繊維を豊富に含む野菜や果物、全粒穀物を意識的に摂取し、腸内環境を整えることで便通を良好に保つことが大切です。発酵食品を積極的に取り入れると、腸内の善玉菌が増え、腸粘膜のバリア機能が強化されるため、炎症や出血のリスクを低減できます。食事の間隔を一定に保ち、胃酸が過剰に分泌される状況を避けることも重要です。
また、40歳を過ぎたら3年から5年ごとに大腸内視鏡検査を受けることが推奨されています。(患者さんによっては毎年必要なかたもいらっしゃいます。)大腸ポリープが見つかった場合にはその場で切除が可能なため、大腸がん発生のリスクを大幅に減らせます。自宅で手軽に行える便潜血検査も有効なスクリーニング手段ですが、陽性の場合には必ず内視鏡検査を受けることが必要です。これらの予防策と定期検診を組み合わせることで、消化管出血の早期発見と重症化予防につなげることができます。
■下血・血便の緊急時の対応と受診のタイミング
大量の鮮血が排出されたり、黒色のタール状便が持続したりした場合には、一刻も早く救急外来を受診しなければなりません。めまい、冷汗、激しい動悸などのショック兆候や、耐え難い腹痛を伴う出血が見られた際には、躊躇せずに救急車を要請してください。受診の際には、いつからどの程度の量の出血があったのか、血便の色や性状はどのようであったか、発熱や腹痛、貧血症状の有無などを可能な限り具体的に医療スタッフに伝えることで、迅速かつ的確な対応につながります。
■よくある誤解
しばしば「痔だから大丈夫」と自己判断する方がいらっしゃいますが、痔以外の重大な疾患を見落とすリスクがあります。また、黒色便が必ず消化管出血を意味するわけではなく、鉄剤の服用や特定の食材によっても便が黒ずむことがあります。血便が一時的に止まっても、根本原因が解消されていない場合は再出血の可能性が高く、必ず医療機関で専門的な検査を受けることが大切です。便潜血検査が陰性だからといって安心せず、症状が続く場合には内視鏡検査など高精度の検査を優先させましょう。自己判断で市販薬のみを使用すると、病状を悪化させる恐れがあるため、必ず専門医の診断を仰いでください。
■下血・血便に関するよくある質問
Q1. 便潜血検査で陽性なのに内視鏡検査で異常が見つからない場合、次にどんな検査を受けるべきですか?
便潜血検査が陽性でも大腸内視鏡や胃カメラで明確な出血源が見つからないケースがあります。このような場合、小腸やさらに奥の消化管を調べるためにカプセル内視鏡や小腸CT(CTエンタログラフィー)、さらにはダブルバルーン内視鏡といった専門的検査が検討されます。これらは消化管のより深い部分を直接観察できるため、隠れた病変の発見につながる可能性があります。※当院では実施していない検査もあります。その場合高次医療機関へご紹介いたします。
Q2. 血便が一時的に止まったように見えても、家庭で様子を見続けるのは安全でしょうか?
家庭での経過観察は出血がごく微量で、痛みや全身症状を伴わない場合に限られます。しかし、自己判断で長期間放置すると、再出血や潜在的な疾患が進行するリスクがあります。鮮血またはタール便が再び現れた、あるいは体調不良を感じた時点で、念のため速やかに専門医を受診することをおすすめします。
Q3. 食事以外で、消化管粘膜を保護するために取り入れられるサプリメントや生活習慣はありますか?
食事以外では、プロバイオティクスやプレバイオティクスのサプリメントが腸内フローラを整え、腸粘膜のバリア機能を高めることが報告されています。また、十分な水分補給と適度な運動、喫煙や過度な飲酒を控えることが消化管粘膜への負担を軽減し、出血予防につながります。ただし、サプリメントの過剰摂取はかえって胃腸の不調を招くことがあるため、使用前には医師や薬剤師に相談してください。
Q4. 出血らしきものを便に認めたとき、自宅での観察時に注意すべきポイントは何ですか?
便に血液が混じっているかを観察する際は、便の色や塊の有無だけでなく、排便前後の体調変化や腹痛、便の硬さ・量にも注目しましょう。また、トイレの水面に直接触れると色が判別しにくくなるため、透明なトレーやビニール袋に便を受ける方法がおすすめです。さらにトイレットペーパーに血が付着していないかもチェックすると、出血源の大まかな部位推測に役立ちます。
Q5. 妊娠中に血便や下血が起きた場合、どのように対処すればよいですか?
妊娠中はホルモンバランスの変化で痔核が悪化しやすく、血便が起きることがあります。しかし、妊娠中は放射線や鎮静を伴う検査を避ける必要があるため、まずは産科医と連携し、可能な範囲で超音波検査や問診による評価を受けることが大切です。重篤な出血や貧血症状が認められた場合には、消化器内科と共同でリスク管理を行いながら、必要最小限の検査・治療を検討します。
■ご予約はこちらから
当院では、血便でお困りの方にもしっかりと診察と検査を行います。場合によっては、内視鏡検査のご提案もいたします。まずは、外来のご予約のうえご来院ください。24時間web予約が可能です。
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