【食中毒】
目次
■食中毒とは?
■食中毒の主な原因菌とウイルス
■食中毒の症状と潜伏期間
■医療機関での診断と検査
■食中毒の治療方法
■自宅での対応・食中毒の誤った民間療法
■食中毒予防の基本原則:3つの「つけない/増やさない/やっつける」
■高齢者・小児・免疫低下者における注意点
■食中毒が疑われたときの受診タイミングと対応
■食中毒のよくある質問
■食中毒とは?
食中毒とは、細菌・ウイルス・寄生虫・化学物質などが食品や飲料を介して体内に侵入し、主に消化器症状を引き起こす疾患群を指します。主な症状は下痢、腹痛、嘔吐、発熱などで、時に脱水や電解質異常を伴います。
単に「お腹を壊した」として来院される方の中にも、実際は感染性腸炎や毒素による中毒を発症しているケースが少なくありません。
医学的には、食中毒は大きく以下の2つに分類されます。
①感染型:細菌やウイルスそのものが体内で増殖し、腸管に炎症を起こすタイプ(例:サルモネラ菌、ノロウイルス)
感染型では、体内に侵入した病原体が腸粘膜に炎症を起こし、粘液便や血便、発熱などを伴うことがあります。
②毒素型:細菌が作り出す毒素を摂取して発症するタイプ(例:黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌)
毒素型では、細菌が既に食品中で産生した毒素が腸を刺激し、摂取後数時間以内に激しい嘔吐を起こすことが特徴です。
食中毒の発生は、単に「不衛生な環境」だけが原因ではありません。食品の保存温度の管理不備、調理時の交差汚染、加熱不足、さらには人の手指からの感染など、日常的な場面にも多くのリスクが潜んでいます。特に家庭内調理での感染例は年々増加しており、外食よりも家庭内の衛生管理が重要視される時代になっています。
■食中毒の主な原因菌とウイルス
①細菌性食中毒:サルモネラ菌・カンピロバクター・腸炎ビブリオ
細菌性食中毒は、加熱不十分な食品や調理器具を介して発症します。
・サルモネラ菌
卵や鶏肉を原因とすることが多く、感染後6〜72時間の潜伏期間を経て、38℃前後の発熱と下痢が出現します。水っぽい便が多く、数日間続くことがあります。
・カンピロバクター
加熱が不十分な鶏肉が原因の代表です。潜伏期間は2〜7日と比較的長く、発熱や筋肉痛、倦怠感が先行し、その後に下痢が始まります。稀にギラン・バレー症候群という神経疾患を合併することがあるため、注意が必要です。
・腸炎ビブリオ
魚介類を介して感染し、特に夏場の高温多湿の時期に多発します。激しい腹痛を伴う下痢が特徴で、重症化することもあります。
②ウイルス性食中毒:ノロウイルス・ロタウイルス
・ノロウイルス・ロタウイルス
ウイルス性食中毒は冬季に多く見られます。ノロウイルスは非常に感染力が強く、わずか10〜100個のウイルスでも発症します。特徴は、急激な嘔吐と下痢。家族内や施設内での集団感染を起こしやすく、アルコールでは不活化されません。次亜塩素酸ナトリウムによる消毒が唯一有効です。
ロタウイルスは乳幼児に多く、白っぽい便が特徴です。嘔吐・発熱を伴い、脱水が進行しやすいため、経口補水液での水分補給が極めて重要です。
③毒素型:黄色ブドウ球菌・ボツリヌス菌
毒素型の代表である黄色ブドウ球菌は、惣菜や弁当などを室温で長時間放置した際に増殖し、毒素が産生されます。摂取後1〜6時間という短い潜伏期間で嘔吐を起こします。ボツリヌス菌は真空パック食品や瓶詰め食品で繁殖し、神経麻痺を引き起こす極めて危険な毒素を産生します。特に1歳未満の乳児ではハチミツが感染源となるため、摂取は禁忌です。
■食中毒の症状と潜伏期間
食中毒の症状は、原因によって多様ですが、一般的に次のような経過をたどります。
最初に悪寒・倦怠感・発熱を感じ、その後に腹部膨満感や下痢が出現します。嘔吐が続く場合は、体内の水分と電解質が急速に失われ、脱水症状(口渇、尿量減少、めまい)をきたします。
潜伏期間は数時間〜数日と幅があり、早期に発症するものほど毒素型の可能性が高いです。
特に注意すべきは、血便、40℃近い発熱、強い腹痛、意識障害、尿量減少などを伴う場合です。これらは重症例であり、急性腸炎や溶血性尿毒症症候群(HUS)などの合併症の可能性もあります。自己判断で市販薬を使用せず、早急に医療機関を受診することが必要です。
■医療機関での診断と検査
消化器内科では、まず症状の経過・食事歴・同時に食事をした他者の発症状況を詳細に問診します。そのうえで以下の検査を行います。
・便培養検査:原因菌を特定する最も基本的な検査。近年はPCR法によって迅速に病原体の遺伝子を検出することが可能になっています。
・血液検査:脱水の有無、腎機能、炎症反応(CRP)を確認します。重症例では白血球やCRPが著明に上昇します。
・尿検査:脱水の程度を評価するために行われます。
診断が確定した場合は、病原体に応じて治療方針を決定します。公衆衛生上、保健所への届出が必要なケースもあります。
■食中毒の治療方法
食中毒の治療の基本は対症療法です。脱水に対しては経口補水液(ORS)の摂取、または中等症以上では点滴補液が行われます。嘔吐や腹痛が強い場合は制吐剤や鎮痙薬を使用します。
抗菌薬はすべての症例で必要なわけではなく、むしろ自己判断での服用は避けるべきです。特にO157感染では、抗菌薬によって毒素が一気に放出され、重篤な合併症を引き起こす可能性があります。抗菌薬の使用は医師が必要と判断した場合に限定されます。
また、整腸剤(乳酸菌製剤)は腸内環境の回復に役立ちますが、即効性はありません。
治療中は脂っこい食品や乳製品、刺激物を避け、消化の良い食事を心がけることが回復を早めます。
■自宅での対応・食中毒の誤った民間療法
食中毒を発症した際、自宅での初期対応は非常に重要です。
まず最優先すべきは脱水の防止です。嘔吐や下痢が続くと、体内の水分と電解質(ナトリウム、カリウム、クロール)が急速に失われます。水だけを摂取しても電解質バランスは改善しません。したがって、経口補水液(ORS)を用いた補給が最も理想的です。これは単なる「水分」ではなく、「ナトリウム・糖・カリウム」のバランスが医学的に調整された溶液であり、腸からの吸収効率が非常に高いことが知られています。
特に小児や高齢者では、わずか数時間の嘔吐・下痢でも脱水が急速に進行するため、
「尿の回数が減った」「口が乾く」「意識がもうろうとする」といった兆候が見られた場合は、即座に医療機関を受診することが必要です。
一方で、食中毒時に注意すべき誤った民間療法もよく話題にあがりますので注意が必要です。
代表的なのが「下痢止め薬の安易な使用」です。下痢は体内の毒素や病原体を排出するための生理的反応であり、無理に止めると腸内に病原体がとどまり、症状を悪化させることがあります。
また、「牛乳を飲んで毒を薄める」といった昔ながらの民間療法も科学的根拠がなく、むしろ腸を刺激して症状を悪化させる可能性があります。
食中毒が疑われる場合は、まず腸を休ませ、適切な水分と電解質を補給し、無理に食事を摂らないことが基本です。食欲が戻ってからは、消化の良い「おかゆ」「うどん」「スープ」などを少量ずつ摂取すると良いでしょう。
■食中毒予防の基本原則:3つの「つけない/増やさない/やっつける」
厚生労働省は、家庭および飲食・調理施設での食中毒予防において、原因微生物を制御する基本理念として以下の3つを掲げています。
・つけない:食品・調理器具・手指などに細菌・ウイルスを付着させないようにする。
・増やさない:付着した菌やウイルスを温度・時間などによって増殖させないようにする。
・やっつける(殺菌する):加熱などによって微生物を死滅させる。
これらの原則は「腸管に入る前・入った後のリスクを減らす」ための方法であり、患者さんにも理解していただきたい重要な予防フレームワークです。
【家庭で取り組む「6つのポイント」】
厚労省はさらに、日常家庭で具体的に実践すべき「6つのポイント」を示しています。
①購入時
食品を購入する際には、可能な限り「安全・清潔・適切な温度管理がされている」店舗を選ぶことが大切です。肉・魚・卵など生鮮食品は、他の食品と分けて袋詰めし、持ち帰り後できるだけ早く冷蔵・冷凍庫にしましょう。冷蔵庫に戻るまでの時間も細菌の増殖リスクになります。
②家庭での保存
食品は、購入直後から冷蔵庫10℃以下/冷凍庫-15℃以下という温度管理が推奨されています。これは菌の増殖速度を抑えるためです。保存容器・包装状態にも気を配り、生の肉・魚から出る汁が他の食品に付着しないようにしましょう。
③下準備(調理前準備)
調理前には必ず手洗いし、生食材(肉・魚・卵等)と加熱済み食品/そのまま食べる食品(サラダ・果物等)を調理器具・まな板・包丁で交差汚染しないように分けて使用することが重要です。解凍は自然解凍ではなく、冷蔵庫または電子レンジを活用すべきです。
④調理
加熱調理が必要な食品は、「中心部を75℃で1分以上」の加熱が目安とされています。特に二枚貝・ウイルス汚染の可能性がある食品では、より厳しい加熱条件が設定されています。
また、途中で調理を中断して放置することは危険です。食品を室温に長時間放置すると細菌が急速に増殖します。
⑤食事時
食事前には手を洗い、清潔な器具・食器を用いて、適切な温度(温かい料理は65℃以上、冷たい料理は10℃以下)で提供・摂取することが望ましいとされています。調理済み食品/生食材は室温に長く置かないようにしましょう。 スマートフォンを触りながらの食事にも気をつけましょう。
⑥残った食品
残った食品は、浅い容器に小分けして早く冷却し、冷蔵または冷凍保存し、再加熱時には十分に加熱(中心部75℃以上)すべきです。また、保存期間が長い、変色・異臭がある、容器が膨張しているなど少しでも異常を感じたら思い切って廃棄することが推奨されています。
■高齢者・小児・免疫低下者における注意点
食中毒の重症化リスクが高いのは、体の防御機能が低下している人です。特に高齢者、小児、糖尿病や肝疾患、免疫抑制剤を使用中の患者では、わずかな感染でも重篤な脱水や敗血症を引き起こすことがあります。
①高齢者の場合
高齢者は喉の渇きを自覚しにくく、また腎機能も低下しているため、脱水の進行が早い傾向にあります。嘔吐や下痢が続く場合、早期に点滴治療を受けることが重要です。
②小児の場合
乳幼児は体重当たりの水分喪失量が大人より多く、短時間で脱水に至ります。特にノロウイルス感染では吐物の飛沫から家庭内感染が起こりやすく、親が感染源になることもあります。
オムツ替えの際は必ず手袋を使用し、使用済みオムツは密封して廃棄することが推奨されます。
■食中毒が疑われたときの受診タイミングと対応
食中毒は「軽症だから自然に治る」と軽視されがちですが、医師として最も注意を呼びかけたいのは受診のタイミングを逃さないことです。
以下の症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。
・高熱(38.5℃以上)または持続する発熱
・嘔吐や下痢が24時間以上続く
・血便、タール便(黒い便)
・尿の回数減少または全く出ない
・意識がもうろうとする
・乳児、高齢者、持病を持つ方の症状悪化
早い段階で消化器内科を受診すれば、適切な検査と治療により重症化を防ぐことができます。
特に細菌性食中毒の場合は、原因を特定することで保健所からの指導や感染拡大防止にもつながります。
食中毒は、誰にでも起こりうる非常に身近な疾患です。しかし、正しい知識と対策を身につけていれば、多くのケースは防ぐことができます。医師として最もお伝えしたいのは、「自己判断を避けること」と「予防を習慣化すること」です。下痢や嘔吐が続くとき、また家族内で同時に症状が出たときは、早めに消化器内科を受診してください。
そして何より、日々の食事における温度管理・衛生管理・加熱の徹底が最良の予防策であることを忘れないでください。
■食中毒のよくある質問
Q1. 食中毒はどのくらいで治りますか?
多くは2〜3日で症状が軽快しますが、カンピロバクターなど一部では1週間以上続くこともあります。脱水がなければ自然回復しますが、重症例は入院治療が必要です。
Q2. 下痢が止まらないときは薬を飲むべきですか?
自己判断での下痢止め使用は避けてください。毒素や病原体を体外へ排出する自然な反応を妨げる恐れがあります。医師の指示がある場合のみ使用しましょう。
Q3. 子どもが食中毒になったときの対応は?
経口補水液を少量ずつ与え、無理に食べさせないことが大切です。嘔吐や発熱が続く場合は小児科を受診してください。
Q4. ノロウイルスは家庭でどう防げますか?
嘔吐物や便は使い捨て手袋・マスクを着用して処理し、次亜塩素酸ナトリウムで消毒します。アルコールでは効果がありません。
Q5. 抗菌薬を飲めば早く治りますか?
多くの食中毒は自然軽快するため、抗菌薬は不要です。病原体によっては抗菌薬が逆効果になることもあります。
Q6. 食中毒の予防に効果的な食品やサプリはありますか?
特定の食品やサプリに食中毒を防ぐ効果は医学的に証明されていません。基本は「衛生管理」「温度管理」「十分な加熱」です。
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